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大阪地方裁判所 昭和56年(わ)5789号 判決

主文

被告人島村勝二を懲役一年八月及び罰金一〇〇万円に、被告人阪本正壽を懲役一年一〇月及び罰金三〇〇万円に処する。

被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円をそれぞれ一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

被告人島村勝二に対し、この裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用のうち、証人阿南孝及び同賓淑江に関する分は被告人島村勝二の負担とし、証人小出良郎、同岡田冨子、同金子正廣、同辻本登喜三、同大東巖、同平満喜、同田中忠行及び同鳥生正幸に関する分は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人阪本正壽は、昭和五三年二月ユニオン商事株式会社を設立し、佐野清和を雇用して同年七月から人工宝石の販売を始めたが、業績不振のため同会社を閉鎖し、翌年一月、鈴木こと金清と共同経営形態で日本人工宝石協会を設立し人工宝石の販売を行なつたものの、業績は芳しくなく資金繰りに困窮していたため業績を伸す必要に迫られていたところ、同年三月ころ、福岡市にある株式会社ジョイフルがECプログラム方式といういわゆるねずみ講の販売方式で急激に業績を上げたことに着眼し、右方式を導入することを決意し、同年五月、右金、佐野に提案してその同意を得たうえ、右方式をとる販売会社として新たに株式会社サンジュエリーを設立することを決定し、同被告人らから勧誘されていた被告人島村勝二は同年六月これを承諾した。(罪となるべき事実)

被告人らはその後株式会社サンジュエリーを設立し、被告人島村は同社代表取締役、被告人阪本は同社会長(昭和五五年一〇月からは同社最高顧問)鈴木こと金清は同社経理担当責任者(通称同社専務)、佐野清和は同社総務部長にそれぞれ就任したものであるが、被告人両名は、鈴木こと金清、佐野清和と共謀のうえ、同会社の販売する人口宝石の販売員募集に名を藉りていわゆるねずみ講を運営しようと企て、右人工宝石の購入代金名下に一定額の金銭を支出すれば同社の準販売員(サブ販売員)と称する会員(以下S会員という。)となり、右S会員が新たに自己の子会員として同様一定額の金銭を支出する者一名を勧誘して加入させればエリート販売員と称する会員(以下E会員という。)に昇格する一方、右子会員は自己を勧誘した会員に代替してその直上先順位者であるE会員の直下の後順位者たるS会員となり、E会員となつてから更に一名以上の同様の子会員を加入させてこれを自己の真下の後順位者たるS会員とし、順次同様の方法で、連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて後続会員を無限に増加させ、右S会員となる新規加入者には、いずれも人工宝石購入代金名下に同社に対して四〇万円を入金させ、同社において、右四〇万円のうちから新規入会者を勧誘した者がS会員である場合には、そのS会員に販売コミッション名下に一〇万円、右S会員の直上E会員に管理コミッション名下に一〇万円、右E会員の直上E会員にボーナスコミッション(オーバーライドコミッション)名下に一万円を、新規入会者を勧誘した者がE会員である場合には、そのE会員に販売コミッション名下に二〇万円、右E会員の直上E会員にボーナスコミッション(オーバーライドコミッション)名下に一万円を、それぞれ右各先順位者である会員の指定する銀行預金口座に振込送金して配当し、先に入会した先順位者が後続の新規入会者の支出する金銭から順次一定額の配当を受け、最終的には自己の支出した額を上回る金銭を受領することを内容とするSEシステムと称する金銭配当組織を考案し、右配当組織に基づき、昭和五四年一〇月三〇日ころから同五六年六月一五日ころまでの間、同市東区京橋一丁目七番地株式会社マーチャンダイズマートなどにおいて、自らあるいは会員らをして新規入会者の勧誘に当たらせ、別紙一覧表記載のとおり、同社のSEシステムのS会員として、新たに山本一子外一、一〇二名を入会させて合計四億四、一二〇万円を同社に入金させた上、同社から先順位者に配当金として送金するなどの方法により右金銭配当組織を主催してこれを活動させ、もつて無限連鎖講を運営したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人は、本件SEシステムは無限連鎖講の防止に関する法律(以下本法という)二条五条に規定する「無限連鎖講」に該当せず、従つて、被告人両名は無罪である旨主張するので判断する。

前掲関係証拠によると、判示のとおり被告人らはジョイフルのESプログラム方式を参考にしてSEシステムと称する金銭配当組織を考案したこと、これに基づいて入会させたS会員は判示のとおり一、一〇三名にのぼること、その内訳は〇一ブレーン(坂本正壽)が北村佐代子他一七五名、一三ブレーン(二六ブレーンを含む、小出良郎)が浜島香代子他一五二名、二五ブレーン(金子雅洋)が島本眞他三〇三名であること、右会員から被告人らが受領した金員は一一〇三名分合計四億四、一二〇万円であり、その内配当金員は三億二、九九六万円であつて、その内訳は販売コミッション一億八、三八〇万円、管理コミッション三、六八〇万円、ボーナスコミッション一、一〇一万円、幹部コミッション九、八三五万円であること、因みに山本一子から昭和五四年一〇月三〇日受領した四〇万円は、同年一二月一五日販売コミッションとして一〇万円、管理コミッションとして一〇万円、ボーナスコミッションとして一万円、幹部コミッション(P)として九万円(以上合計三〇万円)を配当していること、人工宝石の仕入原価はダイヤを除き一カラット当り三〇〇円ないし六〇〇円にすぎなく、ダイヤも数千円で廉価であり、この宝石五カラット(ケース等含む)を四〇万円で販売し、買受人を前示のとおりS会員として入会させ、右四〇万円のうち三〇万円を前示のとおり配当していること等の客観的事実を認めることができる。右事実によれば被告人両名の捜査段階における自白は十分措信することができる。右によれば、前示法条にいう「無限連鎖講」に該当することは明らかであり、判示事実を優に認定することができる。前示会員のほか、J(Z)会員が存在すること、人工宝石五カラットを一度に購入しなくとも、順次購入し、五カラットに達したときS会員になれる者がいること、日本人工宝石協同組合が通産省の認可を受けて設立され、企業活動を公然としていたこと等の事実は本罪の成否に消長をきたさないものと考える。前示自白調書により被告人阪本の犯意についても何ら欠けるところは存しない。

なお、被告人島村の弁護人は、同被告人が弁護士(細見)及び通産局へ問い合せするなどして、同被告人は本法に抵触しない確信を得たもので違法の認識がなく、仮にあつたとしても違法性阻却事由についての錯誤があり、諸般の事情からみて右錯誤はやむを得ないものであつたから、同被告人の責任が阻却される旨主張するが、証人鳥生の証言によると所管してない本件の相談は受けたことがないことが認められるほか、島村は、阪本から、前示ジョイフルからの導入及びSEシステムがその変形であることにつき詳細な説明を受けた経緯並びに右問い合せするなどの行動をもつたことなどに鑑みると、被告人島村は当時前示SEシステムが本法に違反するのではないかとの認容をしていたものと認定するのが相当であるから、同被告人の責任をも優に肯認することができる。弁護人らの主張はいずれも採用しえない。

(法令の適用)

一  罰条  被告人両名の判示各所為 いずれも刑法六〇条、無限連鎖講の防止に関する法律五条(各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を併科)

一  労役場留置  刑法一八条

一  被告人島村につき懲役刑の執行猶予  刑法二五条一項

一  訴訟費用(証人阿南孝及び同賓淑江に支給した分は被告人島村の負担、証人小出良郎、同岡田冨子、同金子正廣、同辻本登喜三、同大東巖、同平満喜、同田中忠行及同鳥生正幸に支給した分は被告人両名の連帯負担)

刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条

(量刑の事由)

先ず本件犯行の動機、罪質、態様をみるに、本件は前示のとおり一一〇三名にのぼる多数の会員を加入させ、これらの者から総額四億四、一二〇万円もの多額の金員を集めた事犯であり、更に登録料名下に一万円を支払えば加入できる「J会員」を含めると入会員総数は五、八一六名にも達し、会員の範囲はほゞ全国に及んでいること、勧誘方法は会員らをして、その友人、知人を甘言を用いて説明会場に誘わせたうえ、参会者の射幸をあおり、一方ではねずみ講ではないなどと説明したうえ、入会すれば直ちに莫大な利益が得られるかの如く錯覚させて販売員、組織の拡充・拡大を計つたものであつて、その社会的影響は無視できないこと、判示ねずみ講の運営により得た利益はサンジュエリーの仕入部門と認められる「日本人工宝石協会」だけでも一億七、二〇〇万円を下らないこと、その他、本件犯行の結果、前記加入者の大半が損失を蒙つているにもかかわらず、その損失を回復する為の措置が講じられていないことなどに鑑みると、その犯情は極めて悪質であるといわざるを得ない。しかしながら、右会員の大多数は自己の金銭欲につられて加入したと推認できる面もあり、いささか軽率であるとのそしりを免れない。

そこで、以上の諸事情に加え被告人らの本件犯行において果した役割、利得額などを総合勘案すると、被告人阪本は最高責任者として本件犯行を遂行したこと、すなわち、本件ねずみ講の企画、遂行の重要かつ中心的役割を果たし、とりわけ企画面(営業面を含む)にすぐれた辣腕を発揮し、ねずみ講隠しのために判示会員のほかにZ会員(のちにJ会員に改変)を作るなどの方式を発案してこれを推進したこと、利得額は金清に次いで極めて多額であること、また被告人島村はサンジュエリーの代表取締役として被告人阪本と共に会員勧誘(営業)を担当し本件のずみ講の枢要な地位にあつたものであり、受けた利得額は少なくないことなどの事情に照すと、被告人両名の刑責は重大といわざるを得ない。しかしながら、他面、被告人島村は、被告人阪本らに乗せられて本件犯行に加担、遂行した側面があること、利得額は共犯者中最小であること、自己所有のマンションを処分して「サンジュエリー」が負担した負債の一部を支弁していること、その他、被告人両名の反省状況、家庭状況など被告人らに有利な事情も存するほか、共犯者らの量刑をも総合考慮し、主文のとおり量刑した。

よつて主文のとおり判決する。

(山本慎太郎)

別紙一覧表〈省略〉

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